2001年1月13日 放射光学会年会
SPring-8
カーボンコンタミネーションによる光学素子(ミラー,回折格子)の表面汚染は反射率の低下や迷光の原因になり,またC K-吸収端付近での分光測定の障害になることから軟X線領域では長く問題とされている.硬X線領域では多少の表面汚染は従来問題とされていなかったが,SPring-8のような空間干渉性の高いX線光源の場合,硬X線領域であっても分光結晶の表面汚染が問題になる場合がある.SPring-8の標準的なビームラインで半年程度使用された分光結晶の表面には数ミクロン以上のカーボンが堆積し,これによる波面の乱れは無視できないものである.
軟X線領域でのシンクロトロン放射によるカーボンの堆積とそのクリーニングに関しては例えば,Harada et al.によるUltraviolet/ozone クリーニングが報告されており,
1)活性酸素による低温での酸化反応により,光学素子表面にダメージを与えることなくカーボンを除去することが可能であることが確認されている.
我々は軟X線だけでなく硬X線用分光結晶を含めた光学素子の放射光照射によるカーボン汚染を除去する目的でUVオゾンアッシング装置(日立UA1000)を導入した.この装置はシリコンウェハ上のレジストを除去する目的で作られていた装置を光学素子清浄化用に改造したものである.主な改造点は,
1.低温処理(100〜150度C)
2.長尺ミラー対応(最長1000mm)
の二点である.
本装置はオフライン処理であるため,光学素子の取り外し,クリーニング,再組み付け光軸調整のプロセスが必要である.このため比較的長期のシャットダウン期間でなければクリーニングが出来ないという問題があるが,カーボンコンタミネーションが問題となるような実験が行われているビームラインでは年二回程度定期的にクリーニングを行っている.半年程度連続使用した結晶の場合,30分程度の処理時間で目視では汚染が確認できない程度にまでクリーニングできる.
1)Harada et al., Applied Optics 30 (1991) 1165